運命的な出会いがもたらしたもの。

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人は運命的な出会いをすると、体に電気が走ったなどの例えで表現することが多い。私がラクロスに出会ったとき、まさにその表現通り電気が走った。その感覚は今でも鮮明に覚えている。

出会いは、1997年春。

知り合って間もない友人に誘われ、キャンパス内に設置された各ブースを回っていた。いわゆる新入生歓迎イベントである。

春のにおいが漂うキャンパス内に、響きわたる明るく元気な掛け声。少し大人びた雰囲気の先輩たちが、キャンパスライフに胸を弾ませている新入生に声をかける。その光景を間近で見て、

「あー、これぞまさに大学だ・・・。」と感じた。

数あるブースのなか、見慣れぬ道具を持ち、お揃いのユニホーム姿で、ほどよく日焼けした女性たちの集団があった。『なんだろこれ』が最初の印象だ。どこか凛とした雰囲気の彼女たちから、声をかけられ少し緊張した。

どうやらラクロスというスポーツで、見慣れぬ道具はクロスと言うそうだ。

そのクロスと専用ボールを使ってする競技らしい。一見すると、ものすごく奇妙な道具だった。一通り説明を聞いて、大学内のグラウンドで練習してるから一度見においでと誘われ、その場を後にした。

中高一貫校でブラスバンド部に入っていた私は、友人たちと共に、6年間練習に明け暮れた。ところが高校卒業後、あれだけ情熱を注いでいたブラバンへの熱が一挙に冷めた。大学でもブラバンはあったのだが、心が全く動かない。あっさりしすぎる自分自身に驚いた。

やりたいことがない生活から、抜け出したい気持ちもあったし、なんとなくあの凛とした女性たちのことが、頭の片隅から離れない。友人にとりあえず練習に行ってみようと思うと伝えた。

言われた場所と時間に足を運ぶと、広いグラウンドの中で練習している姿があった。

上着を着てると、汗ばむぐらいの気温だったが、風がよく抜けて心地よさもあった。

そしてラクロスを初めて間近で見て、心が震えた。なんの迷いもなく、「ラクロスをしよう」そう決めた瞬間だった。

入部して分かったことだが、そのチームは強かった。大学ラクロスは4部リーグまであるのだが、当時1部リーグ所属チーム。とにかくみんな、抜群にうまい。そして、練習もハードだった。

運動神経は悪くなかったほうだが、練習についていくのがやっとで、疲労困憊の日々。練習の途中からは一つ上の先輩が当番制で、私たち新入生の指導をしてくれた。なかなか上達しない日々が続く中、何人か辞めていく子もいたが、残りのメンバー同士で励まし合い、必死でくらいついた。

ラクロスはマイナースポーツが故に、経験者がおらず全員がほぼ初心者。大学生から始める人が多く、スタートラインがみんな一緒という特殊なスポーツでもある。水泳やバレーボール・テニスなど王道のスポーツには経験者が多い。大学に至っては精鋭ぞろいになるため、初心者が入る余地は限りなく少ない。

ラクロスに至っては、自分の頑張り次第で上を目指すこともできる可能性を秘めていた。それも私にとって大きな魅力の一つであり、ハードな練習に必死でくらいつける理由だった。

先輩たちが華麗にクロスを使いこなし、グラウンドを走る姿は本当に圧巻だった。自分たちの練習の合間や、ボール拾いの時間にその光景を目に焼き付け、自分の未来をイメージする。

その時間が何よりも好きで、イメージを忘れないために、家に帰ってからも近くの公園で日が暮れるまで練習したものだ。

遊具がたった一つしかなく、子どもも遊ばないような公園で、独特な形のクロスを持って同じ動きを繰り返している姿はきっと奇妙に映っただろう。ただそのクロスを持っていることが、なぜか誇らしくもあり、人とは違うものへ情熱を注げることがとにかく嬉しかった。

負けず嫌いな性格もあってか、人知れず練習していることは誰にも言わなかった。いや、「言えなかった」が正しいのかもしれない。チームの同回メンバーたちにはとにかく負けたくなかったし、あの公園で練習した成果を何くわぬ顔で披露する瞬間がたまらなく好きだった。

二回生になると、全員ある程度動けるようにはなっていたが、先輩からの指導もより厳しいものになっていた。新人という最大の守りがなくなった訳だから、当然だ。

何をしても怒られ、何をしてもうまくいかず、どんどん憂鬱になる日々。朝起きてとりあえず心を奮い立たせ、グラウンドへ向かってはいたが、足取りは重かった。

あの年によく誰一人辞めなかったものだと、今になって思う。誰一人として、辞めたいなんて口にするメンバーは居なかったものの、いつ出てもおかしくはなかった。なんとか気持ちをつなぎとめ、お互いを必死で支え合っていた。

今もメンバーで集まると、話題として盛り上がるのが、その年の夏合宿だ。「恐怖の夏合宿」私達はそう呼んでいる。

とにかく、きつかった。

練習量も半端なく、まさに満身創痍。照りつける太陽が恨めしく感じた。体力も気力も振り絞り、声を荒げてボールを追いかけていると、意識が飛んでしまうのではないかと思うほどだった。

合宿後半にさしかかったある夜に事件は起きた。大部屋で布団をひいて、同回固まって雑魚寝していた。疲れ切って倒れるように、皆眠りについていた。


一人のメンバーが突然歯ぎしりをしだした。耳障りで鈍く嫌な音が響く。私は目が覚め、全く眠れなくなった。

するともう一人が、苦しそうにしている。後で聞いた話だと、歯ぎしりの音の影響で、工事現場にいる夢を見てうなされていたのだ。

「勘弁してくれ…」私は、何度もつぶやいた。つぶやいたところでもちろん歯ぎしりは止まらない。

そして、また一人、悲鳴に近い甲高い声で叫んだ。『もう、これ以上できへんねん!!!』彼女の心の奥にしまっていた感情が、寝言として爆発したようだ。近くにいたメンバーは、ほぼ目覚め、あまりの光景に吹き出した。暗い部屋の中、笑いをこらえるので必死だった。

その日を境に不思議と楽になった。

人は共感しあえる存在に出会うことで、より強くなれる。一人じゃないんだと感じることで、一歩前を進める。

あの夜の出来事は、メンバーそれぞれが共感し、共鳴しあえる存在なのだと、私の心に刻むこととなったのだ。そして、期待にこたえなければと言うプレッシャーから、開放されたような気がした。

「ラクロスがしたい、華麗に走り回りたい、試合に勝ちたい」同じ志を胸に集まった私達。それぞれが未来をイメージして、奮闘する毎日。

吹き出す汗と照りつける太陽に体力を奪われ、心折れそうになったとしても、唯一無二の存在がいるだけで踏ん張れる。そんな運命的な出会いを果たした私達は、まさに無敵なのだ。

風が抜ける心地よいグラウンド。ラクロスに出会い、体に電気が走り抜けたあの春の日。運命的な出会いが、私の人生を豊かにしてくれた。今でも仲間で集まると、一瞬であの時間にタイムスリップする。思い出話に花を咲かせ、共に歳を重ねていける幸せを噛み締める。私は本当に幸せ者だと感じる。

ラグビーに奮闘している息子の姿に、当時の自分を重ね合わせたりもする。「プロのラグビー選手になるねん!」と目を輝かせ話している姿を見ると、たまらなく愛おしくなる。

トップスピードで走ってくる相手に、果敢にタックルする息子の姿に、いつも心を揺さぶられる。痣だらけになろうとも、仲間と共に戦う姿は本当に美しい。ラグビーを通して、共感し、共鳴しあえる存在にたくさん出会ってほしいと心から願う。壁にぶつかり、苦悩する日々が待っていたとしても、その先の未来に向かって突き進んでほしい。

運命的な出会いがどこで待っているのかは、誰にもわからない。出会いがもたらすものも、人によって違うかもしれない。豊かになり情報があふれすぎる世の中で、共鳴しあえる存在に出会える人が、一人でも多くいればと願うばかりだ。

話したいことはたくさんあるが、また改めて書こうと思う。

あせらずゆっくり、記憶をたどって。

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