家中に響き渡る息子の笑い声に、違和感を感じずにはいられなかった。大きな声で笑うたびに、明らかに声がかすれている。「ついに来たか・・・」先輩ママから聞いていたがついに「声変わり」とやらがやって来たのかもしれない。微妙に低くなった声も不思議な感覚だ。ここ半年の息子の成長には驚かされる。
気がつけば162センチの私の身長抜かし、靴もサイズも私より大きくなった。手を繋ぐと私の手よりもすっかり大きくなっていて、自分の子どもと手を繋いでいる感覚がないぐらいだ。
夫譲りの体格の良さも相まって、今ではランドセルがすっかり似合わない体型になってしまった。元気な声で「行ってきます!!」とランドセルを背負って登校する姿を見るたび、つい吹き出してしまう。「高学年でランドセルはなかなキツイな・・・」と突っ込みたくなるほどのフォルムである。成長期突入の息子の姿を見ていると、子供の成長の早さに感心してしまう。
子供たちの中で一番小さく産まれた息子。2300グラムで生まれた息子は細くか弱く、抱くと今にも壊れてしまいそうだった。出産後、すぐに小児科の管理となり、私のベッドの横にいなかった。授乳時間になると呼ばれ、新生児たちが眠る部屋へと授乳しにいく。やっと会えたという気持ちと、抱くのもなかなか慣れない状況に不安が募るばかりだった。小さな声で泣く息子にどう接していいのか分からず困惑した。
息子の体のあちこちにコードがつながり、機械が邪魔でうまく抱けず苛立ちを覚えずにはいられなかった。自由に動かせない私自身の身体にも、すっかり嫌気がさしていた。部屋に戻ると寂しさと不安で、何度も泣いた。
退院までの三週間はとにかく長い時間だった。長い長い子育ての時間の中でほんの一瞬の出来事が、当時の私にはつらい時間だった。振り返ると懐かしくもあり、つい最近のことのように記憶が蘇るのだから不思議なものだ。
そんな彼も6年生になった。大きな身体に成長した姿を見ると、「出生体重は関係ないんだな」なんて結論に至る。
最もカラダが成長する時期を「成長期」と呼び、一般的男の子では約12歳、女の子では10歳にこの時期を迎えると言われている。もちろん時期にも個人差があり、必ずこの時期に来るわけではない。成長期を迎えると、男の子は筋肉隆々、女の子は丸みを帯びた体に変化していく。
また体の変化と同時に、自我が育ち「自分」というものを考えられるようになってくる。2~3歳頃のイヤイヤ期が「第一次反抗期」、思春期に訪れる「第二次反抗期」そしてその二つの間に訪れるのが「中間的反抗期」と言うそうだ。
中間的反抗期の特徴としては
1.口答えをする
2.反抗的な態度をとる
3.注意されても聞かない
4.親よりも友達を重視するようになる
実際に、素直だった息子も、5年生ぐらいから口答えや屁理屈が増え、反抗的な態度も増えた。反抗的な態度をとられるたびに、私の心が追いつかず苛立ちが募る。「ワーママとして、一日家を空けている状況がいけないのか」「息子と接する時間がとれていないのか」そんなネガティブな思考が頭の中を巡る。
友達から反抗期の話聞きつつ、「反抗期は成長の証である」と自分自身に言い聞かせた。息子の成長と変化を、寛大に受け止められる心が欲しい。そう思うばかりだった。
反抗し強い口調で言ってくる息子に、ついカッとなりガミガミ怒ってしまう度、反省と自己嫌悪のループ。そのループから抜け出すためにも、揺るぎない心で息子と向き合わなければいけない。そして戸惑いながらも、成長の証を受け入れ、理解していきたい。過剰な干渉や押しつけで、反発を招くのだけは避けたいのが本音だ。
反抗期は自立心が芽生え、親や大人を否定ながら自分の価値化や自我を確立していく大切な時期。親として私は何ができるだろう、何をすべきだろう。
親を頼りたい時もあれば、そっとしていておいてほしい時もあるだろう。ふと私自身の子どもの頃を思い返すと、親に対して反抗的な態度をとり、口答えをしていたものだ。あれこれ聞かれるのがうっとうしかったし、「何でも一人で出来る」ぐらいの気持ちにもなってた。
「給食袋すぐ出して」「宿題しなさーい」「明日の準備してや」仕事から帰り、バタバタ家事に追われる時間に、そんな小言ばかり言ってしまう。「そんこと分かってるし」「うるさいなぁ」と息子に思われてもおかしくない状況だ。子どもの変化に追いつけない、自身の心を情けなく感じる。
男の子としては、比較的おしゃべり好きな息子。6年生になった今も、学校でのこと、塾でのこと、友達とのことをたくさん話してくれる。「よく喋るなぁ(笑)」なんて思いながら、一生懸命話してくれる姿がとにかく可愛らしい。「いつかこの会話もなくなっていくのかな」なんて寂しさが脳裏によぎる。だからこそ、今この瞬間の記憶をしっかりと刻んでいこうと思う。
自分の部屋があるのにもかかわらず、いまだに私の横で寝ている息子。寝相が悪く、不意打ちで大きな身体で侵入してくると、ひとまわりもない。「ここが寝やすいねん」なんて可愛い台詞を、声変わりしだした声で言うのだから、親としてはたまらない。体は大きくなっても、甘えたいという息子の気持ちを知ると、嬉しさがこみ上げてくる。
大人の体へと変化する時期だからこそ、正しい判断や責任ある行動が出来る心を育ててあげたい。反抗的な態度をとるようになっても、まだまだ親に甘えたい年頃。頭ごなしに叱ったり、突き放すような言葉は禁物だ。
自我の確立のために欠かせないプロセスである、中間的反抗期。「大人への第一歩」を踏み出そうとしているこの時期。息子とじっくり話し合う時間をつくり、親子で一緒に成長して行きたい。
声変わりを皮切りに、どんな男性に変貌していくのか。親としては本当に楽しみだ。プロのラグビー選手になっているだろうか。子どもの成長こそ、子育ての醍醐味と言えるのかもしれない。